3月16日の日記

2008年3月16日 日常
ざわざわと満ちる屍は誰の所為でもない。勿論俺の所為でも彼女の所為でもない。
すべては彼らが悪いのだ。物言わぬ物体となっている彼ら。動きもしない置物になっている彼ら。
だから彼女が叫んでも、嘆いても、呻いても。彼らは死体のままであり何も変わらない。
だから俺は無駄だといった。何をしても死体が生き返るわけではなく。
生き返ったら生き返ったでまた別の問題が浮上してくるだろう。
それは別として、物体に縋っても何の意味もないじゃないか。
たとえそれが、生前見知った人でも。世話になった人でも。あったことのない人でも。
彼らは死んでいて、俺たちは生きている。
その違いもわからなくなったのかいと口を開いた。
風を斬るような音の後、彼女の拳が俺の顎にクリーンヒットする。
彼女は怒っていた。
目に涙を溜めてなどいないし、嘆いてもいない。ただ怒りを露わにして俺を睨みつけていた。

「謝れ」

彼女は言った。

「この人たちの過ごした、大量の時間」「それから、」「この人たちを育てた、もういない人たちに向かって」

「全部、全部、謝りたおせ」

無茶苦茶だった。彼女の言っていることは無茶苦茶だ。
彼らの死は俺にもそして彼女にも非はない。全ては死んでいる彼らが引き起こした事だ。
俺が謝らなければならない理由なんて何一つない。そうだろう?
彼女は知っている。理解している。わかっている。
この状況を引き起こした原因も、経過も。そして、結果はここにある。

脳味噌が揺さぶられた平衡感覚を失っているらしく未だ身体を起こせない。
仕方がないので俺は転がったままで彼女の叫びを聞いた。

「理不尽だ」「理不尽だ理不尽だ」

とどのつまり、彼女は許せないだけなのだ。
原因と、経過。それに結果。生きている俺たち。
それらが至極単純に、許せないだけ。
彼女が強いから、そして俺は弱いから。彼女は自分と俺を責め、俺は彼女と自分を許す。
それが彼女の弱さで、それが俺の強さ。
彼女は強いから泣くこともできなくて、代わりに泣こうにも俺の涙はとっくの昔に涸れ果てた。

どうしようもないんだ。

俺は彼女に言い聞かせるという名目で自分に言った。
起こってしまったことは、もうどうしようもない。取り返しようもない。
覆水盆に返らずとはよく言ったものだ。
何もできない俺は無力で。何もしない彼女は無気力だ。
彼女は吼えた。

「どうしろと、」「どうしろというんだ!」

だからどうしようもないんだよ。
俺は言葉にださずに、目を瞑った。

+++
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